焼き畑

気がついたら焼け野原

今日のやつ その19

 暑さと寒さ、どちらがマシか。日常でよく話題になる二択である。不思議なくらい意見が分かれる問いだが、私は断然暑さを選ぶ。
 暑いのが特別得意というわけではない。それでも、寒さよりは全然良い。身軽さが違う。暑かったら脱げばいい、脱げば脱ぐほど身軽になり物事に取り組みやすくなる。指は機敏に動くし着ぶくれして動きにくいということもない。まとう衣装が少なくても良いとそれだけで心が軽くなる気がする。よく、暑さよりも寒さを選ぶ論拠に、「着るのは際限なく着られる。脱ぐのには限りがある」と言われることがある。しかしそれは私に言わせれば逆だ。着る方に限りがある。そりゃ、理論上はいくらでも衣服をあるだけ着込める。寒さも防げる。が、そうしていくと辿り着くのは着ぶくれして何をするにも億劫な引きこもりである。指先も足先も冷えるし、手袋をしようものならペンも箸も握れない、キーボードもたたけない。生命活動に支障はなくとも、人間はパンのみにて生きるにあらず。文化的な活動の一つも出来なくては生きている意味がない。というのは言いすぎかもしれないが、私にとって寒さは心まで萎えさせるし、着込めばそれだけ動きにくくなる、生きる価値を失わせていく、死神のようなものだ。
 三月になり、寒さも幾分和らいでいるが、まだまだ風は冷たい。朝晩も冷え込む。早くシャツ一枚で過ごせる時期が来ることを願うばかりだ。