豊作!大豆まめ畑

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読書感想文:赤川次郎、有栖川有栖他『赤に捧げる殺意』

読んだ本

火村英生&アリスコンビにメルカトル鮎狩野俊介など国内の人気名探偵をはじめ、極上のミステリ作品が集結。いわくつきの洋館で、呪われた密室から見つかった死体のからくりに、東京タワーのてっぺんに突き刺さって死んでいた特撮監督の謎。新本に交ざって売られていた一冊の古本が導く、書店店主の意外な死の真相……。気鋭の作家たちが生み出す緻密かつ精密な論理の迷宮。豪華執筆陣による超絶ミステリ・アンソロジー
(裏表紙より引用)

以下、ネタバレ注意

感想

雑感

個人的面白かった度:7
※10段階評価

 ミステリは好きだが、読書ペースが少ないことや選り好みをする性格であることなどが原因で、なかなか新しい作家の開拓できないという問題を常に抱えている。

 そこで手に取ったのが、アンソロジー本だ。有名な作家さんが短編を持ち寄って一つの本になっているこの形式は、まさに知見を広げるのにうってつけである。

 実際に、麻耶雄嵩はこの本を読んで興味がわき、新しく本を買ったりもした。その本も面白く、かなりお気に入りなのだが……もしこの読書感想シリーズが続けば、いずれそれについて語ることもあるだろう。

 私は守備範囲が狭すぎるせいで、本書の中には知らない作家も多かったが、やはり気鋭の作家も多いためだろう、どの短編も読み応えがあり、かなり高水準で纏まった短編集だと思う。

 ただ、全体を通して、「短編ならでは」というものが少ないのが残念といえば残念。例えば、他のシリーズもので有名なキャラの外伝読み切り的な作品だったり、明らかに続き物の一話みたいな書きっぷりで、これから面白くなるだろうに、と思わせるものだったり。

 以下、せっかくなので感想を一作ずつまとめていく。

 ……その形式は一度失敗してもう二度とやらない宣言したはずだが?

 まあ、前回ほどの作品量はないし、私も懲りたのでできるだけ短くさっくり感想を書くだけに留める努力をする。大丈夫。きっと多分。

 ☆は面白かった度、☆が多いほど面白く感じた作品であることを示し、最高で5、最低で1。

有栖川有栖『砕けた叫び』☆☆☆☆★

 探偵事務所のボスが殺された。彼の手にはガラス製の砕けた人形。調査の結果、それはムンクの『叫び』をパロディにした「叫ぶ人」の人形であることが判明した。

 推理小説家と犯罪学者のコンビが、人形を握りしめた被害者の謎をメインに紐解いていく、ダイイングメッセージもの。短編だけあってスピード感があり、推論を重ねながらダイイングメッセージから犯人を探り当てていく小気味の良さが心地よい。

 ただ、このダイイングメッセージの謎解きがきっかけで事件が解決される、というわけではないのがちょっとすっきりしない。容疑者の一人が交通事故を起こさなきゃ、どうなってたのやら。
 そりゃ、ダイイングメッセージ自体に証拠能力はないし、その曖昧性は作中でも指摘されてるけど、もうちょっとこれがきっかけで犯人を追い詰めるような構成でも良かった気がする。

 締めの一文が洒落が利いていて好き。

折原一 『トロイの密室』☆★★★★

 殺害方法が「心臓が弱い被害者をびっくりさせて心臓麻痺」になっている系の作品は基本嫌い。
 その必然性のなさを、別にいいかで許容してしまうと、以降、トリックなんてどうにでも作れるじゃん、という無法地帯になりそうで。
 もちろんこの作品がそうであるように、狙ったわけではなくちょっと驚かせようとしただけ、という偶然起こってしまった事故、ということも多いのだろうけど、メタ的な目線で言えばやはりそれは単なる言い訳に聞こえる。

 前回読んだ『三毛猫ホームズの推理』でもそうだったが、なよっとして頼りなく、ヒロインにべた惚れな主人公刑事+強気で美人なヒロインと言う組み合わせ。流行ってたのだろうか?やはりなんか苦手。

太田忠司『神影荘奇談』☆☆★★★

 流石に、全部が全部映画の撮影でした、というのは無理があろうと思う。

 一応作中であった通り、体験者である瀬戸はもともと気弱そうな青年で、さらに事件当時は状況的にも精神的に追い詰められていたので仕方ない部分は多くあるのはそうだけど、それにしたって簡単に騙されすぎでは。

 首無しの人のポケットから頭が出てくる→「実は背が低い人でした。ポケットから頭が出てくる演出ができるってことは、本当の頭の位置はそこだったんじゃないですか」というのも、しれっと流されているけど、そんな不自然な体勢で歩こうものなら特に肩周りはすごく不自然になるだろうし、被り物をさせられてるのを、それと気づかずに「自分の顔が変化してる!」と思い込まされるとうのもなかなか信じがたい。

 名探偵役が少年、というのはありそうで私の読んだ中では珍しかったので、いずれ同シリーズの本を読んでみたくはある。

 哀愁を漂わせるしっとりとした終わり方はだいぶ好き。

赤川次郎『命の恩人』☆☆☆☆☆

 硬派なミステリというわけではないものの、話としてはこれが本書の中で一番好き。

 久美子の娘、愛の「命の恩人」は紛れもない善人であるのだが、実はその行為には後ろ暗い理由があり……という一筋縄ではいかない因果の糸で絡まった物語が紐解かれるたび、その構図の旨さに感心してしまう。変に「実は下山は悪人」としないのもいいし、「久美子の夫は悪い亭主だから不倫しても仕方ない、下山との愛こそ本物」として安易に久美子と下山をくっつけないのもまたいい。最後、夫と別れるのではなく、久美子が前向きに夫と向き合っていくことを決意して終わるのも爽やかな読後感で良かった。

西澤保彦『時計じかけの小鳥』☆☆☆★★

 たまたま買った本に挟まっていた謎の紙切れ。その紙切れから、少しずつ過去の事件の真相を奈々が紐解いていく。

 このシチュエーション、たまらないものがある。ちょっとした冒険心をくすぐられるというか、暗号や謎のメモからちょっとずつ物事の真相が暴かれていく構図というのは非常にワクワクさせられる。そのワクワクを裏切ることなく、奈々に、安楽椅子探偵よろしく少しずつ無理なく推論の糸を伸ばさせ、ついに真相にたどり着かせて見せたのは見事。

 ただ、きっかけになった「たまたま買った本に当時の事件の重要なアイテムが挟まってた」という偶然が納得できない。偶然、といえばそれまでだけど天文学的な確率だと思う。そこに、その本を手に取るに至る納得できる理由付けがあればなお良かったかなと思う。

 また、無理にじっとりとした後ろ向きな空気で終わらせているのも後味が悪い。

 ハッピーエンド信者というわけではないのでビターエンド・バッドエンドでもいいのだけど(とはいうものの理由がないなら前向きな終わり方をして欲しいとは思っているが)、「友人たちは私を子ども扱いしてる」「私が思い通りになると思ってる」と奈々が思い込むのが理論を何段階かすっ飛ばした感じがして謎に感じちゃう。友人たちは信用できない!嫌い!ってなるのは分かるのだけど、こうやってお互いを貶めながら付き合うことが大人な友人関係かと言われると、本当にそうか?となってしまう。

霞流一『タワーに死す』☆☆☆★★

 主人公コンビのキャラが抜群にいい。

 どこか抜けたところのあるマネージャー・福寺と悲劇のヒロインを目指すも色物の域を出ない女優・久里子。二人の息が合ってるんだかいないんだか、喧嘩してるんだかじゃれあってるのかわからない距離感の会話、やり取りが絶妙で、この上なく楽しい。バカミスに近いこういう空気感のミステリは好きなので楽しんで読めた。

 トリックは、まあ、そうはならんやろ、って感じ。あと犯人名指しの決め手が、ちょっとした言い間違いなのは説得力に欠ける。

鯨統一郎『Aは安楽椅子のA』☆★★★★

 うーん、とても苦手。

 主人公が、石や木、椅子の声が聞こえて、それを活かして推理する、という設定は面白い。安楽椅子探偵が、文字通り安楽椅子に事件を推理させちゃう、というのもぶっ飛んでいてそう来たか、という感じ。

 しかし、それ以外がとことん私には受け付けなかった。

 まず、こういう特殊能力系の定義が全然ないのが嫌い。

 どういう仕組みで無生物の声が聞こえるのか、脳がないのにどうやって考えているのか、人間の言葉はどうやって学習したのか、どうやって人の心を読むのか?あたりはまあ説明できないだろうから、そういうものか、でいい。というかそうしないと話が進まない。個人的には似非科学でもいいからそれっぽい説明を拵えてくれたほうが楽しめるのだけど、まあ、いい。

 石や木、椅子はOKで他の無生物はどうなのか?犬や猫はどうなのか?植物と動物の間のミドリムシはどうなのか?草は一つ一つに意識があるのか?そもそも石や木が、興味深げに、自分たちと何ら関係ないはずの人間の行動を観察し、覚えているのか?

 それと、読唇術の便利さ。通信講座で習ったから、って。耳で聞くのと同じくらい自然にできる、って。さすがにご都合主義過ぎないか?石や木が、人の心をのぞけるというのも大概だけど。

 あと、アンナ含め三人で会話するシーンが何回かあるが、読唇術ならその人の口に注視しないと行けないわけで、誰かが喋る度にキョロキョロ視線を動かしていたのだろうか?誰かが喋りだすのを完璧なタイミングで察知できるのも無理じゃないか?やっぱりご都合主義。

 それと、妙にキャラたちの会話が攻撃的というかいつもピリピリしてる感じなのもストレス。所長もそうだが、仲が良い設定のはずのアンナと中川ですら、棘のある言い方が目立つ。ギャグの部分もあるのだろうが、上手くギャグとして機能していないシーンも多い。

 さらにアンナの性格。何とはなしに、すきになれない、感情移入できない。18の身空で、めちゃくちゃ性格の悪い所長に捨てられたら生きていけない、と思う理由がまず理解できない(ミミが聞こえなくなる前の話)。例えば35で、とかなら、転職することの難しさに悲観的になるのも理解できるけどそうではないし、あるいは拾ってもらった恩義があって所長に尽くしたいというのも違う。なぜあんな腹立つ所長にへいこらするのか理解しがたい。

 それと妙に恋愛脳というか、恋愛重視で物事を見る癖があるようにみえる、特に男性関係。中川を結婚相手として不安だな、と見ていて逆に脇坂のほうがタイプ、とか突然言い出しちゃう割に、逆に自分が好かれるような人間かを全く考慮に入れてない時点で……。

麻耶雄嵩『氷山の一角』☆☆☆☆★

 初の単独ライブを間近に控えたタレントグループ「フォークルセイダーズ」。そのマネージャーが、事務所で殺されているのが発見された。その傍らには血で書かれた謎の記号。

『タワーに死す』に続き、これもキャラが抜群にいい。メルカトル鮎は知らなかったが、その高飛車な居住まいとそれに見合った頭の回転の早さは好みなタイプの探偵役だ。単にうざいキャラなだけだと魅力はないが、これに天才的な頭脳を加えると途端にキャラに深みが出る、嫌なやつだけど憎めない的なポジションに収まってとても良い。

 ただ、今回は変化球というか、いつもは相棒、ワトソン役の美袋が名探偵を偽って捜査する、という通常とは違うであろう進行状態になってしまっているのが残念。もしこれがメルカトル鮎の事件簿的な感じの短編集で、メルカトル鮎が活躍する短編が5つも6つも集められたような本だったなら、一つぐらいはこういう変わり種があっても良いと思うが、このような、各作家を代表するような短編を集めてアンソロジーにしました、というような本では不適格に思える。あくまで「いつものメルカトル鮎」を知っている人向けというか。

総評

 どの作品も味があって読み応えがあり、かなり満足感のある一冊でした。

 いくつかはあまり良くない感想を書いてしまったが、それでもこういう作家がいる、こういう作品が存在する、というのを知れただけでも、新しい作家さんを読むきっかけや入り口ができたと思えるので、読んで正解だったのでは、と思える。

 ただ、こういうアンソロジーで良く思うことなのだけど、全体としてテーマがあるわけではないのでまとまりはなく、またこの作品のために書き下ろされてもいないので、どうしても「この作品はアンソロジーに収録するのは不適切では?」と思ってしまう作品も混じっている。例えば、どうせメルカトル鮎の短編を載せるのなら、単品でまとまりのいい作品があったのでは?と思ってしまう、やや変化球気味の麻耶雄嵩『氷山の一角』や、壮大な設定をこれでもかと盛り込んで、「俺たちの戦いはこれからだ!」感を出して終わってしまった鯨統一郎『Aは安楽椅子のA』など。

 それでも、人気作家の短編を一気に通読できるという機会は貴重だし、やっぱりなんだかんだどれも面白い・考えさせられる作品ばかりだったので、自分の守備範囲を広げる意味でも、この手の本は果敢にチャレンジしていきたい。